アジア人権人道学会報告概要 1

アジア人権人道学会報告概要


 このホームページは6月末に移転の予定です。その際は、このページからリンクをしておきます。
 学会理念は、5月9日をご覧ください。
 学会入会申し込みは、5月10日をご覧ください。
 結成大会報道一覧は、5月11日をご覧ください。

 報告会では、まず川島より最初の総会の報告が行われた。
 そして、規約承認の件と、今回、選任された理事並びに会長の紹介が行われた。
 次に、創立会員の紹介を行った。このメンバーは学会成立について2007年から話し合いの場を持ってきた方々であり、一言づつ自己紹介を兼ねて挨拶をしてもらった。

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拉致問題の現在」 荒木和博・拓殖大学教授

 荒木氏は、まず、会場に来て頂いた拉致被害者・増本並びに特定失踪者の家族の方を紹介されました。当日は、

 ・増元るみ子(拉致被害者)の弟・増元照明さん
 ・小林榮さん(特定失踪者)の弟のご夫婦
 ・生島孝子さん(特定失踪者)の姉
 ・後藤美香さん(特定失踪者)のお父さん
 ・宮本直樹さん(特定失踪者)のお父さん
 ・藤田 進さん(特定失踪者)さんのお父さん

が会場に来ておられました。なお、拉致被害者とは、政府が認定した拉致被害者であり、特定失踪者とは、北朝鮮により拉致された可能性が濃厚な方を指します。北朝鮮から手紙が来ていたり、脱北者の証言に登場したり、持ち帰った写真に写っていたりしている方があります。

 荒木氏は、拉致には、北朝鮮当局による人権侵害という点だけではなく、日本国内における人権侵害という側面があるという点を指摘しました。これはマスメディアでは、余り指摘されてこなかった面です。被害者を救出できない状況、これも人権侵害ではないかとした上で、

  • 不作為による人権侵害
  • 公権力による意図的な問題の隠蔽や鎮静化
  • 国民自身の問題意識

の三点を指摘されました。政府は2002年、金正日が拉致を認めるまでは、具体的な行動をとってきたとは思えず、むしろ、小泉総理の平壌会談も、拉致問題を国交正常化の取引材料とした点があった。拉致問題を解決すると称し、実際、拉致問題を交渉材料として国交正常化を目途としていたのではないか。

 さらに、政府が意図的に隠蔽しようとする面もある。金正日・小泉会談の後、政府は外務省板倉公館にと、被害者家族に北朝鮮側の回答を通知したが、それは死亡通知のみで、実は北朝鮮側から通知されていた死亡日付を伝えなかった。死亡日通知の件は、後に新聞社によりスクープされたものであり、しかも、その日付は、脱北した工作員の証言などからみると、杜撰で出鱈目な日付であった。
また、DNAデータ捏造してまで、政府は拉致問題をないことにしようとしているのではないか。

 山本美保事件(1984年6月4日、山梨県甲府市にて失踪)では、4日後の6月8日、新潟県柏崎市荒浜海岸に本人のセカンドバックが落ちていたことが確認された。ところが、警察は事件から17日後に、自宅から200キロ離れた山形の海岸で見つかった遺体が、DNA鑑定の結果、山本さん本人と同一のものであるとしてきた。到底、同一人物とは考えられない。そもそも、その遺体は体格・着衣が異なり、歯が13本抜けたものであったという。こうなるとDNAのデータそのものを捏造しているのではないかとの疑いがあり、これが事実であれば、一警察の部門による判断とは思えない。

 第三番目は、われわれ国民の問題である。政府の責任の一端は、国民にもある。同胞に対する不作為の人権侵害である。たとえば、北朝鮮強制収容所の問題について言うと、知らないから仕方がないということが言えるだろうか。わからなかったから責任はないと言えるものだろうか、そのわからないでいる間に、収容所では、次々に人権侵害が拡大していく。拉致被害者強制収容所に入れられている可能性もある。

 最後に、今後の課題として、次のようなことを話されました。
 家族会が結成されて12年も経ってしまった。過去のことが分かりにくくなってきた。途中から関わってきた人にとって、わかりにくいことになってきたので、これからは、記録を作っていくことが重要である。
また、日本人の拉致害者以外に、在日朝鮮人拉致被害者がかなりいるのではないか。
 さらに、終戦時、北朝鮮に残った所謂「日系朝鮮人」が、どうなったのか、その後がよくわかっていない。安明進証言では、陸軍中野学校出身の教官がいたとあり、工作機関と関わることになった可能性があるのではないか。

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独裁体制経済分析から見える独裁 黒坂真大阪経済大学教授

 黒坂氏の報告は、これまでの北朝鮮問題研究として、異色である。まず第一に、ミクロ・マクロ経済学の観点からの分析であること、第二は、レジュメは全文英文であり、国際化対応を逸早くとっている点である。本学会のあるべき姿を示されたと思う。

 北朝鮮の現象を、経済学という観点からどう表現していくべきなのか、学問という場で、余り議論されていない。大学の講義で北朝鮮の問題や中国の人権を議論する機会はほとんどない。はじめに独裁者が人々に,財生産における分配率と個人崇拝に対する実質賃金を示す。これを見て人々は,所得を最大にするように労働配分を決定する。このゲームを後ろ向きに解くことにより,部分ゲーム完全均衡を導く。

 崇拝行動が、経済行動であり、市場経済によって成立している経済システムではない。また、ケインズ理論では、短期的には需要サイドにより決定されるが、北朝鮮では供給サイドにより市場が決定される。また、独裁は、威信を必要とする。このため、経済が威信を表現するための手段となる。

 黒坂氏は、生産量、労働、財の生産性、個人崇拝1単位あたりの実質賃金、人々が保有している総労働時間、財生産における独裁者の取り分、人々の所得、留保所得(独裁者に従わないでも得られる所得、脱北したときに得られる所得や,収容所で入手できる所得とみてもよい)、独裁者の消費などを、分析要素として、ミクロ・マクロ経済の観点から論じ、分析した。

 独裁者は人々が行う個人崇拝1単位に対し,wの賃金を支払う、そして、人々の所得は次のように表わされ(以下略)といったように、崇拝行為とそれに対する利益供与といった観点から、独裁経済を数理的に表現していった報告であった。

 また、人々が,独裁者の支配下に入らない,服従しないでも得られる所得を(留保所得)としよう。独裁者が人々を従わせるためには,留保所得以上の所得を人々に保証せねばならない。これを参加制約という。独裁者には,留保所得を上回る所得を人々に与える誘因はない。

 ゲームの順序は次のようになっている。はじめに独裁者が人々に,財生産における分配率と個人崇拝に対する実質賃金を示す。これを見て人々は,所得を最大にするように労働配分を決定する。このゲームを後ろ向きに解くことにより,部分ゲーム完全均衡を導く。

 独裁者は効用を最大化するように,実質賃金と財生産における分配率を決定する。独裁者はその際,誘因制約と参加制約を考慮せねばならない。留保所得が上昇すると財生産労働が増加し,個人崇拝が減少する。北朝鮮では国民の留保所得が低いと考えられるが,これにより金正日は長時間の個人崇拝を享受できていることになる。

 実際の報告は、数式が続くのであるが、ここでは、記述にとどめる。
 ホームページを更新後、同氏のレジュメを掲載することにする。

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二つの集会からアジア人権人道学会によせる 川人博弁護士

 5月3日の憲法記念日の集会と5月6日の拉致被害者の国民集会の比較を論じた。共に、日比谷公会堂で行われ、川人弁護士は、双方に出席していたのである。

 共通点は、両方の集会とも、開会の前に音楽が流れ、家族を大切にということばがあり、人間の幸福追求は似ている。もう一つは、アメリカに対する不信(対テロ戦争に対する不信、テロ解除に対する不信)も似ていた。相違点は、3日の集会では、憲法九条を守るために絶対に負けられない戦争と、失言していた。6日の集会では憲法改正と頼むぞ、との声がかかる。

 両方の比較から、考えさせられるのは、日本人は、どうして最後の結論に至るまでの間にある事実の過程を精査しないのか、ということである。例えば、3日の集会では、拉致という言葉も出ない。北朝鮮の言葉も出ない。一回も出ない。そうした会にくる人々は、強制収容所のことを驚くほど知らない。平和というのは、戦争がなければ平和があるというものではなく、人権が尊重されて初めて平和がある。平和という結果だけで論争するのではなく、その過程にどんな人権問題があるのかを見るべきである。

 また、食糧支援にしても、1990年代は、援助をしても民衆の元には届かないということが事実であったが、最近の脱北者の調査では、三分の一の脱北者が援助された食料にアクセスしているのである。このように結果に対する是非だけで、議論するのではなく、過程に対する、調査が必要である。

 この学会では、憲法については、様々な立場の人がいるが、アジアで人権と人道を確立しようという点で一致して集まっている点に意義がある。人道という言葉が入っている点が結構であると考えている。
 そのためには、憲法などについての是非の議論があっても、それと同時に、常に原点に立ち返っていくことが大切である。


 以下は、概要報告2を(5/19アップ予定)
「アジアの人権状況と日本外交の課題」 土井香苗・ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京ディレクター

「タイから見た拉致・脱北」 海老原智治・パヤップ大学タイ日センター コーディネーター

ビルマの人権問題の報告」 マリップ・セン・ブ(Marip Seng Bu)